2015年に始まった機能性表示食品制度は、消費者が正しい知識を持って食品を選ぶことができるようにするためのものです。新しい機能性表示食品が発売されると、多数の企業がプレスリリースを行います。よく耳にするプレスリリースとはどんなものなのでしょうか。
また届け出制の機能性表示食品は、企業によって届け出が撤回されるケースがあります。その場合のプレスリリースはどうなっているのでしょうか。
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プレスリリースは、英語のプレスとリリースを組み合わせた言葉です。プレスは新聞リリースは公表という意味で、企業の広報が報道機関に向けて情報を提供することです。新聞だけでなく報道機関すべてに対する情報の提供ですが、便宜的にプレスリリースと呼んでいます。
プレスリリースは文書によって行われることが一般的なので、ほとんどの場合文書そのものを指してプレスリリースといいます。プレスリリースで提供される情報は、新規である必要があります。新規といっても新しく発表する商品やサービスについてだけでなく、改定や改善などの情報も含まれます。
広報の仕事は自社の活動について広く社会に知ってもらうことです。報道機関への情報提供が上手く行けば、広告費を使わないで広報活動を行うことができます。普段目にする新製品などのニュースは、プレスリリースを起点としてメディア関係者が編集した上で公表されています。
プレスリリースがメディアに取り上げられることは、企業にとって多くのメリットをもたらします。1つは信頼性です。第三者の目から見た情報は企業が出した広告よりも、受け手にとって信頼度の高いものとなります。投資家から注目されたり、業務提携のきっかけになるかもしれません。
継続的なプレスリリースによって会社の知名度が上がると、売り上げにも反映されます。
機能性表示食品のプレスリリースの例をご紹介します。取り上げるのは大手の飲料メーカーから発売されたエナジードリンクです。沖縄タイムスのオンライン版ですが、この記事は記者によって書かれた記事ではなくメーカーのプレスリリースをそのまま記載しています。
見出しの冒頭には「業界初!」の文字が躍っています。このメーカーは働く男性の健康に対する意識の高まりを背景に、エナジードリンクの飲用者が特定保健用食品や機能性表示食品の購買意欲が高いことに注目しました。消費者のエナジードリンクに対する「健康志向」と、「気分転換」への期待を感じて開発された商品です。
機能性関与成分には豊富な研究データを持つ他企業の素材である茶カテキンを利用し、BMI値が高めの人の「内臓脂肪を減らす」機能性を表示しています。刺激のある新感覚な味わいが、気分転換の後押しをするそうです。
クエン酸の酸味とカテキンの渋みで、後味がよく飲みやすいそうです。なぜ沖縄タイムスは記事を書かないで、記事として企業からのプレスリリースをそのまま載せたのでしょうか。
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機能性表示食品制度で定められている機能性を表示できる場所は、商品のパッケージだけです。広告などそれ以外の場所に機能性を表示する場合には、景品表示法・健康増進法・食品表示法の規制の対象となります。商品や機能性表示に対する十分な知識を持たないで機能性表示食品の記事を書くと、これらの法律に抵触してしまう可能性があります。
特に健康増進法の誇大表示の禁止では主語が「何人も」となっており、規制の対象は商品を作ったメーカーに限定されません。新聞の記事として紙面に載ったプレスリリースは企業の手によるものなので、広告に類するものと解釈できるのではないでしょうか。
その場合プレスリリースの中で問題となるのは、突如現れたクエン酸です。クエン酸はレモンや梅干しなどの酸味のある食べ物に含まれる成分で、体内で糖をエネルギーに変えたり、マグネシウムなどのミネラルを吸収しやすくして体内の疲労成分を分解するといわれています。
食品表示法では機能性表示食品について「消費者庁長官に届け出た機能性関与成分以外の成分を強調する用語」を表示禁止事項としています。プレスリリースでは「また、クエン酸の酸味とカテキンの渋みですっきりした後キレにより、飲みやすさにもこだわりました」と表現されています。
この商品の機能性関与成分は茶カテキンです。カテキンとセットにして語られていますが、クエン酸がカテキンよりも前に書かれていることや「酸味」「すっきりした後キレ」「飲みやすさ」などは微妙なのではないでしょうか。
2018年の11月、消費者庁は機能性表示食品を販売する複数の企業に対して薬機法違反をいい渡しました。
薬機法を所轄する厚生労働省から「歩行能力の改善」という機能性の表示が、医薬品的な効能効果を謳っていると指摘されたためです。機能性表示食品は届け出制ですが、消費者庁は受理する前に届け出内容について厳しいチェックを行っています。
実質的に消費者庁が、問題のない表示としてお墨付きを与えているも同然です。この時点までに指摘を受けたと見られる15製品のうち7製品が、届け出撤回の手続きをしています。関係者によると厚労省による指摘は1部の商品の広告に行き過ぎがあったことと、医薬品にまったく同じ表示があったことが原因と見られています。
機能性表示食品は、2020年の末までに3,722件の届け出がなされています。これに対して、企業から届け出が撤回されたのは396件です。
撤回されても、企業からはプレスリリースされません。お伝えした通り、プレスリリースは改定や改善の情報も含みます。撤回の理由は販売終了や商品のリニューアルによるものなど様々ですが、届け出表示の見直しや機能性関与成分の不備・修正による連鎖的な撤回もあります。
届け出表示の見直しには、法律に抵触した可能性も含まれます。また企業には次の商品の届け出が受理されるまで、機能性表示食品の撤回を引き延ばす傾向があります。これらの情報は企業のプレスリリースではなく、消費者庁の公表によって知ることになるのが現状です。
現在メディアで紹介されている商品のほとんどが、企業によるプレスリリースを基にしています。機能性表示食品も例外ではありません。記事になっているものもプレスリリースをそのまま載せているものもありますが、表現そのものに問題がある場合があります。
よい情報はプレスリリースによって公表されても機能性表示食品の届け出の撤回など、消極的な内容は報道されないので消費者庁の発表にも注目する必要があります。